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大森靖子が「僕」を獲得するまで(「TOKYO BLACK HOLE」に至る一考察)

簡潔な前置き
・僕は大森靖子さんの大ファンである。
・「TOKYO BLACK HOLE」という曲を聴いていたらテンションが上がってきたので、この文章を書いた。

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大森さんは、「TOKYO BLACK HOLE」というアルバムから、三次元的に歌詞を書けるようになったと、発売当時のインタビューで言っていた。言い換えるなら、登場人物やその視点を一曲の中に複数入れて、多面的にひとつのテーマについて歌えるようになったという事だろうか。

確かに既発の曲、例えば「パーティードレス」や「君と映画」、それに限らない多くの曲は、東京で暮らすどこかくすんだ部分を抱えた女の子の歌が多かったと思う。それ自体が大森靖子だと捉えられて、大小の誤解を招いた面もあったようだ。(例えば、大森靖子は時々手首を切らないと幸せが分からない歌舞伎町の風俗嬢なんだ、とか。歌の中の話だよそりゃ)


ここでひとつの仮説を立てたい。

大森靖子は「僕」を描く実験を繰り返し、ついに「TOKYO BLACK HOLE」でそれを成立させた。」

どうだろう?


大森靖子を聴きかじった事のある人なら、大森靖子は「女の子の歌」を歌う歌手だというイメージは無いだろうか?

なにせ、「すべての女子を肯定する」という旗印を掲げて作られたアルバム「絶対少女」の一曲目のサビからしてこれである。
「絶対女の子絶対女の子がいいな絶対女の子絶対女の子がいいな絶対女の子絶対女の子がいいな絶対女の子絶対絶対絶対彼女!」

因みに、ライブに行くと大森さんにこのサビを合唱させられるおっさんの群れを目撃する事が出来る。何を隠そう僕もその一員だ。

しかし、大森さんが。超歌手と自称するあの大森靖子が「2枚も前のアルバムのコンセプトを引きずって」新作を出すだろうか?27才で死ぬと思っていたというくらいのスピード感を自負している彼女が?


ということで、絶対少女以降のアルバム曲で、主体が「私」ではなく「僕」になっている曲をざっと洗い出してみた。ざっとなので、間違いがあるかもしれない…という言い訳をしつつ、以下の通りになった。

「絶対少女」
青い部屋

「洗脳」
・イミテーションガール

「TOKYO BLACK HOLE」
・TOKYO BLACK HOLE
・超新世代カステラスタンダードMAGICマジKISS
・さっちゃんのセクシーカレー
・無修正ロマンティック〜延長戦〜(この曲は歌詞が明らかに男性目線っぽいのだけど、直枝さんと共作だという事と、僕や俺という一人称が出てこないので今回の論議からは外す)
・給食当番制反対
・少女漫画少年漫画

ほら!!めっちゃ増えてる!!
これが上記の仮説のひとつの裏付けにならないだろうか?

そして「TOKYO BLACK HOLE」に至るまでの「青い部屋」「イミテーションガール」「さっちゃんのセクシーカレー」(これは、先行シングルとして。)の3曲が、「僕」を描く作品を作り上げるための実験だったのではないかと考えている。なぜなら、各曲にはこのような特徴があるからだ。

・「青い部屋
映画「誰も知らない」と、ヘンリー・ダーガーの生き様を下地に書いたと大森さんがインタビューで言っている。つまり「僕」ソングの手始めとして、モチーフを使った習作なのだと言えないだろうか。(話の流れ上習作とか言っているけどあくまで「僕」ソングとしての習作であって、この曲単体で名曲なのでこの曲はマジ好き過ぎてヤバイ

・「イミテーションガール」
歌詞の主体は「ぼく」で、タイトルは意味深な「にせもの少女」。
歌詞の「似合わない」「睨まれて帰る」「ぼくの世界を作る」などのキーワードを読んでいくと、少女のふりをしたい男の子の歌のように捉えられる。これはまさに「私」と「僕」の移行実験として作られた作品ではないだろうか。つまり、これまでの大森靖子的女子的世界観に「僕」なるものをねじ込むとこうなりますよという歌だ。EDMポップ風の曲調に騙されずによく見ると、かなりエゲツないメタモルフォーゼが行われようとしている!

「さっちゃんのセクシーカレー」
この曲で、大森さんの「僕」探しはひとつの到達点を得たと言えるだろう。
少年ジャンプの漫画「食戟のソーマ」のED曲として作られたこの曲は、自分のライバル的立ち位置に居た「さっちゃん」に向かって、大森さん自身の心情が「僕」に投影されて歌われる曲となった。
メタモルフォーゼは完了したのだ。これで「僕」への変態能力を身につけた大森さんは「TOKYO BLACK HOLE」で、いくつもの「僕」や「私」になって、より幅広い詞世界を作り上げていくようになったのではないだろうか。。。

以上が、大森靖子が「私」ではなく「僕」を描く曲を、幾つかの楽曲で実験して、ついに「TOKYO BLACK HOLE」でそれを開花させたという根拠だ。

本当は「TOKYO BLACK HOLEの歌詞めっちゃすごい!めちゃ好き!」っていう話を書こうとしたんだけど、それに至るまでの「大森靖子が「僕」を獲得するまで」というシンキングタイムが長かったので、一旦ここで終わりにする。

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「TOKYO BLACK HOLE」の歌詞については、気が向いたら書くだろうし、気が向かなければ書かないと思う。

「いやぁ、大森靖子って本当にいいもんですね〜」
じゃそういうことで。