日記30 大森靖子 TOKYO BLACK HOLE TOUR 初日 秋田公演についての話

10/1
大森靖子 TOKYO BLACK HOLE TOUR
初日 秋田公演についての話

30分毎に、うっ…うわぁ…などと寝言を呟きながら、極めて浅い眠りを繰り返して、午前2時半には完全に目が覚めてしまった。これではまるで遠足前の子供だ。もうアラサーのおじさんなので全然子供ではないのだけど、遠くに出かける日なのは確かだった。大森靖子TOKYO BLACK HOLE TOUR初日、秋田公演へ行く日だ。

結局寝つけないままTwitterを見ていると、4:30頃に二宮さんが「奇跡的起床」とツイートして、その後に大森さんが「4:44」とだけ呟いていた。大森さんたちは4:30起きのスケジュールだったんだろうか。

寝つけないおかげで時間だけはたっぷりあったので、ゆっくり準備をして、6:45頃に家を出た。もし仕事でこの時間に家を出なければならないということならブチギレているところだけれど、今日は完全にマイ・ホビー、マイ・プレジャーなのでルンルン気分での出発である。

関西から会場のある大曲へ行くには、空港から飛ぶか、新幹線を2本乗り継いで行くかの二択になる。僕は東京からひとと合流することもあり、後者を選んだ。新幹線に乗車して、名古屋あたりまでは、うつらうつらと舟を漕ぎながら向かった。全然関係ないけど「座っているのに眠くて頭がカクカクする」のを「舟を漕ぐ」って表現した昔の誰かは、マジで天才だと思う。

乗り換え時に同行者に駅弁を購入してきてもらって、むしゃむしゃと食べながら東北へ。この時買ったお弁当は「鮭はらこ弁当」だったのだけど、イクラがこれでもか!これでもか!と詰まっていて満足度がとても高かった。駅弁選びの際は是非。

大曲については「ゴマシオキッチンがある」ということ以外は何も知らなかった。ゴマシオキッチンとは…大森さんが「魔法が使えないなら死にたい」リリースツアーで(たぶん)初めてライブをして以来、店主の進藤さんの人間味だとか、ハイコーフェスという廃校を使ったプチフェスの主催ということなど、なにかと話題を振りまく、大森靖子ファンにとっては「東北の聖地」といった所だ。
ちなみにハイコーフェスでは、体操着の大森さんと「東北のももち」というミステリアスな美女といっしょにチェキを撮ることができるぞ!

前回の「洗脳」リリースツアーでは、妊娠を公表しないまま二部制でライブを敢行した大森さんが、涙を見せながら、たぶん気持ちのギリギリのところで演奏をしてみせた場所でもある。
http://ototoy.jp/news/81448


実際、大曲に着くと、どうやらここは「花火の町」のようだった。聞くところによると、単に花火大会をしているわけではなく、総理大臣賞も出すような花火の競技大会をしているそうだ。たしかに駅の壁には、持てる技術の粋を尽くしたような複雑で派手な花火の写真が大きく貼り出されていた。なにかの賞を取ったやつがこうやってポスターになっているのかなと想像した。

よく言えばのんびりした、悪く言えばなんにもない田舎町だった。そもそも人が少ない。初秋にしては暖かい日で、気持ちよく田畑の風景が広がっていたけれど、雪に閉ざされると随分淋しい景色になってしまうかなと思った。

駅員さんに訊けばいいのに、駅の周りを無駄にうろついてしまって、やっとバス停を見つけた。1時間に1本のバスが発車してしまう前に、どうにか乗り込むと、大森靖子ファンらしき人が数名、同じバスに乗っていた。

20分ほど揺られて、会場最寄りのバス停に到着した。片道510円。ひと駅超える毎にグングン運賃が上昇していくのが可笑しかった。みんな車持ってるもんなあ。無力な我ら観光客のために、バスは走ってくれているのだろう。たぶん赤字で。
数分歩くと会場の名水市場枠太郎・國之譽ホールに着いた。

今回はゴマシオキッチンが会場ではない。(さすがにキャパ40人のカフェではパンクしてしまうよね。)その近所の、酒蔵を改造したホールが、今回の会場の「國之譽ホール」だった。

白壁と対照的に黒く重々しい扉の酒蔵。そこに、ピンクの画用紙の切り抜き文字で「大森靖子」「LOVE AKITA BLACK HOLE」と貼られていた。ご丁寧にその横にはTOKYO BLACK HOLE初回盤ジャケットの一糸まとわぬギター女子…にTシャツを着させた、全年齢対象版の顔ハメ看板まである。全部手作りだ。会場の文化財的な趣に対して、温かみと愛とすっとぼけた感じが混ざった手作り装飾が気持ちよかった。

待ち時間に、葛入りのモチモチしたアイスキャンディーを食べながら「これ、発酵したガリガリ君や!ガリガリ君界の納豆やで!うまい!うまい!」と騒いでいたら、その横をおばあちゃんが「あら、今日は何かあるの?コンサート?」などと言いながら通って行った。

主催の、ゴマシオキッチン店主の進藤さんが現れた。D.D.ラモーンと志磨遼平を足したような風貌の細身長身の人で、予想に反して見た目がカッコイイ。その進藤さんが「それでは準備できましたので開場しまーす」と言うと、整理番号順での整列も無いままに入場が始まり、待っていたお客さんたちに一瞬動揺が広がった。しかし会場を見ると、なんと指定席制のようだった。なんか珍しい感じ!

外の装飾にも手作りの愛が染み出していたけれど、中は中でその愛が迸りまくっていた。
会場のレイアウトは「洗脳」ツアーの大分公演に近い。控え室から中央のステージまで真っ直ぐに赤い花道があり、中央のステージを、座席が囲んでいる。ぱっと見100席程度だろうか。

客が周りからぐるっと囲む形になるので、いつものピンク色のメインマイクが立っている方向と真逆に、もうひとつマイクスタンドが立てられていた。さらに周囲にいくつかの集音用マイクが立てられている。LINE LIVEでの配信もあるためか、これだけのマイクを立てるのは今回の特別仕様だと思うし、同行するPAさんの「やったるで」感が伝わるかのようだった。

ステージの周りには、ひとつひとつ大森さんマークの単眼猫「キチィさん」が描かれたピンクの風船がたくさん置かれて、壁には「大森大森大森…」と名前だけの切り抜き文字が、40枚は貼られていた。後のMCで大森さんが「昔のドラマに出てくるストーカーが、好きな女の写真を壁一面貼るのは見たことあるけど、名字だけは初めて見た」ということを言って笑っていた。

足が悪いので、あらかた客が入った後に入場した。指定席なので急がなくていいのがありがたかった。物販で今日限りのチェキくじとかをやっていたけど、開演前には参加せずに待った。
入場時に渡されたオリジナルドリンクの紙コップには、気の抜けるような大森さんの似顔絵に、エンドレスダンスの歌詞から引用して「もう好きじゃなくなったのかなー」と書いてあった。全員分手書きだし、それぞれ歌詞が違う。
「セイコ」という文字と大森さんの顔写真がパッケージになっているビスコも配られた。前回までは大森さんの顔に似せたクッキーだったけど、この人数分クッキーを焼くのは難しかったのかもしれない。

ドリンクを飲んで待っていたら、定刻になり、控室側からさっと、黒いゆるめのニットを着た大森さんが現れて、真ん中のステージに立った。ギターを鳴らすと、音が天井から降り注ぐように鳴った。ホール備え付けのスピーカーから聞こえているようだった。


この日のセットリストは以下の通り。

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TOKYO BLACK HOLE
マジックミラー
PINK
絶対彼女
夏果て
さっちゃんのセクシーカレー
ハンドメイドホーム
非国民的ヒーロー
春の公園(調布にて)
呪いは水色
給食当番制反対
ミッドナイト清純異性交遊
KITTY'S BLUES
オリオン座
魔法が使えないなら
お茶碗
Over The Party
SHINPIN
少女漫画少年漫画

背中のジッパー
デートはやめよう
愛してる.com
さようなら

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ライブを通して感じたことは、大森さんの歌とギターが信じられないくらいに調和していることだった。
会場の規模とマイク・スピーカーの位置によるものもあったのかもしれない。生音とマイキングを自在に使い分けて、時にハミングバードからの出力をオフにしても変わらない情報量が脅威的だった。

大森さんは、本当に様々な感情を歌詞とメロディに乗せて、一見自由奔放に歌を紡いでいるように見えるのだけど、ギターを操る手元を見ると、その自由奔放そうな歌に、伴奏としてのギターが完璧に、へばりつくようについてきている。
そこから得られる答は「大森靖子は全て計画的にこの表現を行っている」ではないだろうか。恐らくそれは、相当なギターテクニックに裏打ちされている。

歌もギターも表情も時々ステージを踏み鳴らす音も、すべて音楽というひとつの塊に感じられた。演奏というよりは、ひとつの芸術、この場だけのインスタレーションのようだった。
大森さんのライブをインスタレーション的だと思うことはこれまでも何度かあって、芸大出身という素養があるからなのかなってその度に思ったりもする。

だからこそというか、やはりというか、この日はLINE LIVEで映像配信があったのだけど、この場で見られて良かった!良かったぞ!と思った。
数日前に配信があるというお知らせがあった時は「片道6時間もかけて秋田に行くのに配信で見られるのか…」とちょっと残念に思ったりもしたけど、それは明らかに間違いだった。

オリジナルドリンクの味とか、東北の秋空の澄んだ空気の感触だとか、iPhoneでライブの映像を見ることと、その場でライブを見ることの違いはあげようとしたらいくらでもあげられるだろう。
でも結局は、空気のふるえなのだと思った。イヤホンで鼓膜が振動することと、その場で楽器が鳴らされ、歌が歌われ、100人もの人が息をのんで(逆に、空気をふるわせないように)じっと見つめている、その空間こそが価値だ。

下世話な例えで申し訳ないけれど、なんならAVとセックスぐらい違うと思った。というかLINE LIVEは途中で配信が終わったので、前戯で終わるAVだ。抜けねーよ!うそです言い過ぎました。

そういえば配信の最後に演奏された、おそらく公式のライブでは二度目の披露の「オリオン座」という曲が、本当に美しいメロディで、夜空の遠くにまたたく愛を感じるような、ほんとうにいとおしい歌だった。「呪いは水色」ばりの壮大な美曲が出てきたぞ!という感じなので、まだ聴いたことがないひとは、超!楽しみにしておいた方がいいと思う。おそらく「POSITIVE STRESS」のファンクラブ盤にデモが入ると思う。買おう。

大森さんの歌を聴くとしばしば涙が堪えられなくなる時がある。嗚咽を漏らしそうな時さえある。ぼくにとって、この日いちばんのそういう曲は「夏果て」だった。
「夏果て」は監禁された女の子とその犯人について歌った曲で、美しく堕落した風景が夏のじめっとした空気に滲んでいく画を想像して楽しむ曲…のはずなのに、なぜかこの日は、それが自分自身のことのように感じられた。

「部屋の隅で縛られ眠る昼下がり」が、「仄かなひかりで時々目覚め照らされた身体」が、入院していた日々を思い出させた。「殺したおっさん」が発症する前の、「殺された少女」が発症した後の自分に置き換えて感じられた。おっさんの気持ちも、女の子の気持ちも、その歌に描かれた空間も、かつて自分が体験したものだった。そんな風に感じられた。

まぁぼくが何を思ってどう泣いたかなんてどうでもよくて、そうやって勝手に解釈して心を震わせることがひとつの正しい音楽の聴き方だと思ったってだけだし、大森さんの歌以外でもいいから、誰かにとってのそういう曲がたくさんあれば世の中ちょっとよくなるんじゃないかなとか思う。

移動中にしっかり力をセーブしてきたと言って、饒舌にMCを挟みながら歌をいくつもいくつも重ねていく大森さんが楽しそうで、こっちまで嬉しくなった。

「ミッドナイト清純異性交遊」では、ピンクのサイリウムを取り出すタイミングを逃した客席全体の雰囲気をすぐに察知して、曲を途中で止めて、物販の紹介を少しくだけた調子で挟みつつ「その買ったサイリウムを使って下さいね。それではもう一度初めからやりましょー」と言って、きっちりと場をコントロールして、いくつものピンクの灯りを灯してみせた。この部分、もはや貫禄すらあるステージングだった。まじで。

あと、「絶対彼女」で立候補した人と、今日が誕生日だからということで「背中のジッパー」をリクエストして、大森さんとデュエットした人がいたんだけど(二人とも歌が上手かった)、その流れで二宮さんも歌うことになって、マイクを2本使って、向かい合いながら「デートはやめよう」を歌ったのが本当に良かった。

四角のステージに薄めの赤色の覆いがかぶせられていて、周りには風船と機材が散乱していて、その真ん中にふたりで立っているのは、別の曲だけど「ベッドの上だけ綺麗にかたして幸せのステージ」という感じだった。

何の曲なら歌える?って大森さんが二宮さんに訊いた時に「なんでも」と豪語した二宮さんがかっこよかった。本当になんでもだったんだろうか。「デートはやめよう」は実際すらすらと歌っていたけれど。若干私生活に絡めながら「エロいことをしよう」と歌わされていたことには会場中が笑って拍手していたけれど、彼の沽券に関わるので、ここには書かないでおこうと思う。

かくしてライブは終わった。集中して聴いていたからか、ずいぶん疲れを感じた。大森さんだって真剣勝負でライブをやっているだろうし、聴いているこっち側だって真剣勝負だ。なんせ大森靖子の弾き語りだからな!(論理破綻)

既に売り切れもでている物販の中から欲しいものを選んで買って、チェキくじに挑戦するも参加賞の生写真2つを貰うことになった。
今回の物販は「意識髙いT2016」の存在感が突出している。色味が落ち着いていて、サイケデリックなTシャツとしてまさかの普段着もいけそうだ。ピンクメトセラ金平糖は可愛いという理由だけで大森さんがつくることにした、とのことだった。

帰り際に会場前でぐずぐずしていたら、地元のお客さんが車で駅前まで送ってくれた。「地元民の務めですから」と言いながらハンドルを握る姿に惚れそうだぜ。運転しながら、吉澤嘉代子さんのファンであることや、洗脳ツアー直後に大森さんを知って、秋田に来るのを待っていたこと、先週のハイコーフェスにも行ったことなど話してくれた。改めてありがとうございました。って、届くわけでもないけど書いておこう。

駅前の「おり座」という店で稲庭うどんを食べて宿に帰った。ツアーが始まったよ。楽しみだね。特別なことには特別な負担がつきものだと思うから、大森さんのことが心配になる時もあるんだけど、それでも大森さんなら大丈夫だよって思ってしまうよ。だって大森さんだもんな。今ここにしかない全てと最強を見せてね。愛してるよ!
という気持ちでバッタリとおやすみー。

ゴマシオキッチンに行くのはまた次の日の話。