日記59(2017/3/4 大森靖子 鹿児島 鹿屋公演)

3/4

最近、5時間以上眠れないことが多い。

寝る前に酒を飲んでいたり、しっかりリラックスしていないのが悪いんだとは思うけれど、なかなか改善出来ないでいる。

ただ、早朝に目が覚めるというのは、都合がいい時もある。たとえば今日みたいに遠出をする時は、午前4時に目が覚めたあと、一旦熱いシャワーを浴びて、荷造りをして、十分に出発時刻に間に合う、ということになる。
朝、そういう動きを経て、大森靖子さんのライブを見に、鹿児島県鹿屋市へ出発した。

僕が大森さんを見に遠出をするのに、始めは驚いていた母も、今や「大森さんに会えたらよろしく言っておいてね!」と出かけざまに声をかけてくるようになった。
何をよろしく言えばいいのか分からないけれど、病気で足を悪くした息子が、杖をつきつつでも出かけていく理由になっているのだから、母親としては大変お世話になっているという実感があるのかもしれない。

などというテキトーなプロローグで、
1)ぼくが大森靖子さんのファンだということ。
2)足が悪いこと。
という情報を整理。


関西から鹿屋に行くには、九州新幹線に延々乗って行くか、飛行機で飛ぶかの2択になる。空港に着いても、駅に着いても、そこからさらに1時間以上高速バスに乗る。今回の往路では飛行機を選んだ。
バスに乗り、電車に乗り、モノレールに乗り、伊丹空港に到着。初めて来た伊丹空港は、大阪国際空港という正式名称から想像していたよりは小さめの、山中にある空港だった。

村上春樹の新刊「騎士団長殺し」を空港のブックストアで買い、カバンに入れた時の意外な重さに、なんでハードカバーの本なんか買ってしまったんだと後悔した。そういえばポケモンの続きがやりたくて3DSも持って来てしまった。本とゲーム。家かよ。

空港で待っている間は、九州に飛ぶということで、福岡県出身の好きなアーティストの音楽を聴いていた。家かよ。

5時のサイレン 6時の一番星
https://youtu.be/5cSDROPTngI

渋ってる朝に 終わってる夜に
https://youtu.be/VJ2-3-HagEc

ただ前へ進む
https://youtu.be/acmgYbwiIJc

大森さんのライブに行く時は、あえて大森さんの曲は聴かないようにしている。ライブ体験の純度を高めたいという目論見がある。


飛行機の中でうとうとしていたら、あっという間に鹿児島に着いてしまった。地元より空気が暖かく、春が近づいている気配がする。

空港のフードコートでちゃんぽんを頼んだら、本当に美味しくもなく不味くもない普通の味で、それを食べながら「本当に美味しいちゃんぽんとはどの程度の力量を持っているのか」「長崎県民にどこのちゃんぽんが一番美味しいか聞いたらリンガーハットと答えられたんだけど、それは本当なのか」「冷凍食品のちゃんぽんなら食べたことがあるけど、むしろそれのクオリティが非常に高いのか」などと思いが駆け巡り、楽しかった。

機会をみて、とても美味しいちゃんぽんというのを探してみたい。


空港発の高速バスに80分ほど揺られて(揺られながらゲームをし、本を読み、音楽を聴いて、)鹿屋に着いた。

空港から鹿屋までの道中はずっと山道だったので、どんな場所に着くかと思っていたら、「一応、ひととおりの物は揃っています」という感じの小ぢんまりとした街で、安心した。失礼ながら。

会場の「リナシティかのや」隣接のバス停で降りると、僕より早く関西から鹿屋に来ていたオー氏が、特に約束もしていないのに出迎えてくれた。
(この日の彼の存在感は大きいのでオー氏という名前を付与した。勿論、星新一のエヌ氏を意識した命名だ。)

オー氏は、もう鹿屋の「ひととおり」を回ってしまったらしく、もはや現地ガイドみたいになっていた。

はい!今日大森靖子さんのライブがあるのはここ、リナシティかのやの3階ですよ!あ、そういえばさっき、かんぱち箱寿司の店に行って買ってきたんですけど食べます?温泉に入ってきたんですけど、いい感じでしたね!おっ、泊まるホテル一緒じゃないですか!道順わかりますよ!

イェーイ!この人最高!

という邂逅を経て、オー氏は現地知人と海を見に行き、僕はリナシティかのやあたりにしばらく一人で留まる事にした。

特にやる事がなく、コーヒーでも…という気分でもなかったので、目の前のスーパーマーケットで缶ビールを買い、川辺の憩いの場所的なやつで飲む事にした。
「カルテット」6話でクドカンが飲んでいたので、サッポロの350ml缶を選んだ。

子連れのお父さんがのんびりと寝転び、小学生が5人ほどで二重跳びの練習をしていて、女子中学生二人が、スマホのテレビ電話を使って、遠くの友達と一緒に山手線ゲームをしていた。
それを眺めながら他所者の変なおじさんがビールを飲んでいた。俺だ。

鹿屋市の人達は、この街のことをどう思っているんだろうか。
住みやすい、愛すべき地元と思っている人もいるだろうし、早く都会に出たいと願っている人もきっといるだろう。
大森さんは、大森さんの地元、愛媛県松山市のことを「何でもあって、何にもない」と表現していた。鹿屋は、僕の感覚で述べるならば「何でもあるとは言い難いが、何にも無くはない」という街だ。その街で大森さんは何を歌おうとするだろうか。

そういうことを思いながらサッポロビールを飲み、さらに2本買い増し、飲み、途中からオー氏と地元知人が戻ってきて、彼らはキリンビールを買ってきて飲み、なんだか即席の飲み会のようになってしまった。

オー氏らと「茶色いものは何故なんでもうまいのか、要は小麦で揚がっていればいいのか」だの「3人でこんな場所で飲んでいて不審者だと思われないか、でも3人で集団を形成しているので、仮に不審者だとしてもある程度の社会性は備わっている証明になるはずだ」だの、たわいない話をしているうちに日が暮れかかってきた。
東京から来ている別の大森靖子ファンたちもわらわらと集まり始めたので、片付けて会場に向かうことにした。

ビールを飲んだ勢いで、缶ビールを70本買えるくらいの金額を物販にて散財した。美マネさん、今日もありがとうございます!

入場。


今回のイベント「KANOYA MUSIC FREAKS」はTHISTIME Productionsが企画し、実現したものだそうだ。
会場の「リナシティかのや」は、良く言えばスーパーマーケットや映画館まで擁する市民交流複合施設。わるく言えばハコモノ行政でできあがった建物、らしい。とはいえ、鹿屋の中心的な場所の1つには違いないだろう。

リナシティかのやにて路上ライブをしている高校生SSWの藍さんがオープニングアクト、ゲストアクトがラッパーDOTAMA、そして大森靖子の本アクト、というタイムスケジュールが、事前に公表されていた。

会場は、中野サンプラザを400人規模にぎゅっと縮めたような感じ…と言うと、伝わる人もいるだろうか。それぞれの街に1つはある文化ホール、という趣きだ。
こういう、個性を排した会場で大森さんの演奏を見ることは意外と無いので、何が起きるだろうかという期待を持った。
客入りは席数の半数程度だろうか。前列側の席は埋まっていて、後列側は空席も多くあり、という感じだった。BGMが止まり、客電が落ちる。

ライブが始まった。


オープニングアクトの藍さんは制服で登場して、瑞々しい歌を、伸びやかな歌声で届けてくれた。この人数を前に歌うことは、年齢的にも初めてなんじゃないかと勝手に想像する。
爽やかな楽曲の中に、緊張の粒が伝わる1曲目。そして、2曲目の途中で弦が切れるアクシデントが起きた。
一瞬音が止まり、そこから最後の3曲目までは、緊張を越えた「とにかくやりきるんだ」という意思を感じて、個人的には、弦が切れたあとの方が良い音楽を聴かせてもらえたなという気持ちでいる。

彼女はこの街に居続けたいだろうか。それとも。
どちらにせよ、これからも歌い続けてほしいな。そう思わせてくれるような演奏だった。


その次のDOTAMAさんのアクトは、DOTAMAさんについてもっと詳しい人がいるだろうから、自分が書いても仕方ないかもしれない。けど書く。
サラリーマンをやりながらずっと音楽を続けてきた日々を胸に、思いのたけをトラックに乗せてラップしていく様は圧巻だった。フリースタイルを2曲やっていて、2曲目に、お客さんからお題を7個も貰ってフリースタイルをやりきっていたのが特に凄かった。
即興でラップができる人の頭の中はどうなっているんだろうか。率直に凄い。

フリースタイルダンジョンに出演していることもあり、鹿屋での知名度は大森さんより高そうだった。
会場の空気をきっちりかき混ぜて50分ほどの出演を終えたあと、影アナが15分の休憩を告げた。こういうところが文化ホールっぽい。


15分後、透け感のある赤のワンピースを着た大森さんがステージに現れて、ライブが始まった。
DOTAMAさんが、フリースタイルの時に「大森さんはスゲェぜ、お客さんの顔が見たいから客電をつけたままやるらしいぜ、俺は人見知りだからできない」とうたっていた通り、会場は明るいまま、大森さんは歌い始めた。

「TOKYO BLACK HOLE」から、なにかをひとつひとつ確かめるように大森さんはギターを弾き、歌を紡いでいく。歌を使ってその「場」を創っていくという方が、感覚としては近いかもしれない。
だから僕は大森さんの音楽はインスタレーション的だと思うし、何度見ても、さらに何度でも見たくなるような魅力があると思う。
「TOKYO BLACK HOLE」の最後に、DOTAMAさんきっちり繋いでくれてありがとう〜というような一節を付け加えて会場が少し笑い、空気が丸くなる。

空港から会場までの車の中で、大森さんとDOTAMAさんは一言も話さなかったらしい。ウケる。

今日のハミングバードは、ジャキジャキというより、バキバキのいなたい音で吠えていた。そのまま次の曲へ。

「Over The Party」「エンドレスダンス」と歌い、新曲の「アナログシンコペーション」が披露された。
サビの歌詞の、突き抜けるような水色感が好きな歌だと思った。抽象的な感想だけど。
アルバム「kitixxxgaia」の最後の曲だから、音源で聴いたらさらに別の響き方をするんだろう。CDが出るのが楽しみだ。

このあたりで大森さんが「リナシティの別のホールで、子供たちがダンスの練習をしていて、可愛い〜と思って見に行ったら、保護者の人達にめちゃくちゃ警戒されて。私だって人の親なのに…。子を産んだら「人の親」というものになると思ってたけど、べつに私は私なんですね」というMCをしてお客さんを笑わせていた。
だけど、大森さんがテーマの一つとしている(と僕が勝手に思っている)レッテルからの解放や、あなたはあなたでいいという信念に、この話は軽やかに繋がっているし、今思えばいい話だったのかもしれない。これ。

「SHINPIN」「最終公演」と続く。
その次の「新宿」の途中からシールドを引き抜き、大森さんは生歌での演奏に切り替えた。僕は4列目に座って、できるだけ集中して聴こうとしていたけれど、そのタイミングで自分にもふと周りを見渡す余裕ができた。

前述したが、会場はSS席・S席の前列と、後列のA席に分かれ、前列は大体埋まっているが、後列は空席が多い。そして後列のお客さんは、必ずしも大森靖子を知って来場したというわけではないようだった。
ライブが中盤に差し掛かったそのタイミングでは、大森さんの歌をじっと聴く前列と、大森さんを眺めている後列には少し温度差があるような気がした。

不意に、大森さんが最前右端のお客さんに曲のリクエストを訪ねた。あとから聞いた話だと、その方が妊娠されていたそうで、おなかのお子さんへ、ということだったらしい。
戸惑い、考えて、その方は「ミッドナイト清純異性交遊」と答えた。大森さんが生音で歌い始めて、前列の多くの客はピンク色のサイリウムを取り出して光らせ始めた。
ここで、後列がなんだこれ…!ざわざわ…!とし始めて、その空気感がまさに「気持ち悪くて気持ちいい」(Base Ball Bearの歌詞な)って感じだった!

「ファナティック(狂信)」と「傍観」という2つの感情が、たったひとつの歌でぎりぎりと擦れていく。空気が混ぜ返されて、このあと何が起こるんだ?という緊張と痛快さがはしる。
いつか生まれるこどものために「ミッドナイト清純異性交遊」を歌い上げる様は感動的で、そのたっぷりとした濃密な愛の歌を享受できるのが幸せだった。

https://youtu.be/smEhVWqJsXM

大森さんは次の「マジックミラー」を歌いながら、客にちょっかいをかけつつ(僕もかけてもらった。鼻血出そう)その場の中心点である自分をだんだん後列に移していく。
さらにリクエストを受けて、「非国民的ヒーロー」を歌い、歌いながら扉を開けて会場を出て行ってしまった。その瞬間ダッシュで追いかけていく美マネ。そして、ちょっとした手品のようにホールの別扉から戻ってきて、笑いと拍手が湧いた。

まだほぼ最後列を維持して「ホールを出て行ったら外の物販のスタッフがすごい喜んでくれた」「S席という概念を壊してやった」と楽しそうに話す大森さん。

次にやった曲は「絶対彼女」。大森さんは、最後列の端っこにいた子供に右手側のギターのストロークを手伝わせながら、いつも通りに会場の女性陣に「絶対女の子がいいな」と歌わせ、さらにおっさんどもに同じ歌詞を野太い声で歌わせた。
前列のファン達が、鹿屋市民の善良な皆様に向かって「おっさん!おっさん!」と叫ぶ感じになってしまった。
僕ですか。全力で野太くおっさんパートを歌いましたよ。

この「発想の転換」とでも言うべき数曲で、会場の空気が大きく変わった。
別々の皿に盛られていたカレーとライスが、よく炒められたカレーピラフになったくらい変わったのだ。たとえ方下手かよ。

そして、名曲「呪いは水色」を丁寧に歌い上げながらゆっくりステージに戻って、大森さんは少し話したあと、最後の2曲「PINK」「さようなら」を歌った。

音楽を届けるために鹿屋にきた。
ジャカジャカやっている私なんかでもやれるというところを見せたい。
ギター1本あればなんでもできるし、ギターが無くても、声だけでも、パソコンでも、家から出なくたって音楽はやれる、そういうことを伝えたい。

記憶が曖昧だけど、そういうことを話されていた。

最後の「さようなら」をアカペラで歌い終えたあとの「なんだこれは」「すごいものを見た」という客席の雰囲気が心地良かった。

アンコールで、歌詞を検索して一緒に歌ってねと言いながら「オリオン座」を歌い、ライブは終わった。
濃密な1時間だった。

セットリスト

TOKYO BLACK HOLE
Over The Party
エンドレスダンス
アナログシンコペーション
SHINPIN
最終公演

新宿
ミッドナイト清純異性交遊
マジックミラー
非国民的ヒーロー
絶対彼女
呪いは水色

PINK
さようなら

en
オリオン座

ホールからロビーに出ると、大森さんが物販に出てきていた。既に散財パワーが弱まっていたので、小さなグッズを購入して、少し話させて貰った。

終演後に物販を買った人全員と丁寧に握手をして、話をして、それに対して泣きながら話す人もいたりして。
最後の最後に、ホールの人が「もう時間です!」とばかりに電灯を消し始めるまで、物販は続いた。大森さんのそういう姿を見るのも、なんだか久しぶりだった。


さて。
ライブのあとは、オー氏がファンの飲み会に誘ってくれて、そこまでの移動もオー氏が別の知り合いの車に乗せてくれるよう頼んでくれた。
大いに飲み食いしたあとに、オー氏に案内されて、ホテルまで連れて帰って貰った。
この人、僕に弱みでも握られてるんだろうかというくらい親切だった。まぁ親切な人なのは、前から知っていたけれども。

ホテルのウェルカムドリンクのペットボトルの水と、大森さんのステージドリンクの水が一緒だったので、大森さん、このホテルに泊まってるんじゃないかなキャッキャと言いながら、それぞれの部屋に帰り、就寝となった。


なんだろう、この文章。
ああ、そうだ。ただの日記だった。
一応、今回は、ライブに行けなくなった人からチケットを譲って貰ったので、こういうことがありましたよーというのを少しでも伝えたかったという気持ちもあり、書いた。ライブと関係ない話ばっかりだけど。ありがとうございました。


そういえば、母から大森さんによろしく言っておくの、忘れてた。

おやすみ。