「私の絵がロックンロールになったら」さいあくななちゃん個展へのお誘い

さいあくななちゃんの個展を見に来た。

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個人的な、自分なりの芸術鑑賞方法がある。まず作品に対峙する。ずっとその作品と対峙し続けて、その作品が発している答が見つかるまで見続ける。感じ続ける。そういう方法。
さいあくななちゃんの個展も、そういうやり方で対峙してみようと試みた。

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ななちゃんの多くの絵には、女の子が描かれている。一応、「どろちゃん」という名前がついている。でも、便宜上そう呼ばれているだけというか、あまりその個性が強調されることはない。
名前の由来は聞いたことないけど、「泥」みたいに絵の中で色んな形に作られるからかもしれないし、「ドール」みたいに絵の中で様々な役割を与えられるからかもしれない。本人にあえて訊くことはしないでおこうかなと思う。

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多くの絵の中で、どろちゃんは無表情に正面を見据えている。目尻に涙を浮かべていることもあるが、感情表現としての「泣く」までには至っていないように感じる。醒めた表情。煙草を吸っている表情。ギターを弾いていたり、マイクに歌いかけていたりする時もある。感情を抑えているというよりは、虚ろに日々を送っていて、窓際の席で教室の外ばかり眺めている女の子のようなキャラクタが思い起こされる。それは、あるいは僕の記憶と妄想が混濁しているだけなのかもしれないけれど。

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一方、どろちゃんを取り巻く画面は、ひとつひとつ激しく、鮮やかに描かれている。時に「FUCK」だとか「どいつもこいつも許さない」という言葉が描き込まれている。虚ろな表情の女の子と、その子を取り巻く激しい世界。まず、その対比が美しく感じられる。

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とりわけ、ジャクソン・ポロックのような画面の中に、そこに腰掛けるように佇む女の子がいる絵は圧巻だ。この絵の中の女の子は、他の絵の中の女の子より少し強い表情をしている気がする。しかし、その感情を読み取ろうとしても、掴みきれない。背景の激しい赤、黄、緑、ピンクの筆使いだけがそれを表している。

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(前見た時も思ったけれど、)ななちゃんが何を意図して制作しているのかを知りたいと思う。知りたいけれど、作者に訊いても仕方ないので、とにかく作品を鑑賞する。そこで得たものこそが答えなんだろう。正解なんて無いんだから。

幾つかの作品は、テーマを感じやすい。「大人反対」と大きく描き込まれた絵は、まあその通りなのだろうと思える。自分が写った証明写真が貼られていて、上から絵の具で塗り潰されている。あと、さいあくななちゃんが誰かに向けて描いた絵とか、自分自身のその時の集大成的な作品もいくつかある気がする。そういう絵は、これまで描かれた絵のモチーフが散りばめられたりしていて、ロックバンドのベストアルバムのジャケットみたいな趣きがある。「この絵のこの部分はここだな」という風に発見があるのが楽しい。

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一方、それ以外の、ななちゃんが日々の中で描き続けている作品は、主題を見つけるのが難しい。(というか本人がテーマは決めずに描くことが多いと言っているのを聞いてしまったので、そういうことなんだろう。)そこには、日々の感情の移ろいが瞬間的に保存されたような絵がある。そういう絵が、ものすごい量、ある。そして、それらの絵が個展の時にひとつの空間を埋め尽くす。溜めに溜められた日々の感情が、個展の会期中に放出され続けて、爆発し続ける。そういうところが、さいあくななちゃんの絵が、個展が、好きな理由なのかもしれない。

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そして、やっぱりそれは、アティテュードとしてのロックンロールに通じていると思う。ずっと部屋やスタジオに籠もって、練習を続けて、ライブステージで熱狂的に放たれるロックンロールに。

ななちゃんはいくつか曲を作っている。多くは自分の思いを率直に歌ったものだ。その中に「私の絵がロックンロールになったらいいな」と何度も歌い続ける曲がある。(https://youtu.be/YnSKuey-jGE

鑑賞している僕の側からすれば、ななちゃんの絵は既に思いっきりロックンロールだ。でも「もっと、もっと」と、ななちゃんがロックンロールになろうとする営為を、自分を叩き上げ続ける行為を、絵を通して見せられていると、これからもっと凄いものを見せてくれるんじゃないかと、さらに期待させられる気持ちが湧いてくる。僕はさいあくななちゃんの絵が好きだ。好きだからこんな文章を書いている。そして、あらゆる人の手の中に四角い画面があって、極めて簡単に画像にアクセスできる環境の中、本当に言いたいのは「芸術は 実物を 見ないと 分からない !」ということだ。さいあくななちゃんの描くものが本当に好きだから、実際に絵を見られる機会があったら、一度足を運んでみて、体感して、見てほしいなって思う。

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